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自治体は「消滅」を回避すべきなのか(コラム#033)

「人口戦略会議」が『地方自治体「持続可能性」分析レポート』を発表した。マクロの人口減少問題を、あえて「自治体のサバイバル・ゲーム」に仕立てることで、少子化のトレンドを変えようとしているのは一定程度理解できる。しかし、仮に自治体を「消滅」させてでも、広域で密接に協力して、自然減・少子化問題を早期に解決する方がはるかに重要であるという点は、もっと強調すべきであった。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)

 

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 「人口戦略会議」(議長:三村明夫)が、『地方自治体「持続可能性」分析レポート』(以下、レポート)を今般公表した。日本創生会議(議長:増田寛也)が10年前に公表した「消滅可能性都市リスト」(以下、前回リスト)の続編ともいえるものである。


 前回リストは、「自治体が消滅する」というセンセーショナルなネーミングも功を奏して、かなり話題になり、その後のいわゆる「地方創生」の流れにつながった。



 もっとも、今回のレポートでも指摘されているように、各自治体の人口減少対策は、人口流出の是正という「社会減対策」が主眼となってしまい、隣町から住民が引っ越してきてもそれでよしとする、といった誤った方向での政策が目についた。マクロでみれば、自然増を目指すことがはるかに大事であることは明らかなのに、行政のエネルギーを浪費してしまったのは、痛恨である。時の政権が、「地方創生」「東京一極集中の是正」といった美名の下で、社会減対策を後押しするような政策を打ち出したことも罪深い。失われた10年となった。


 今回のレポートでは、前回リストと同様、「若い女性が減少し続けると、自治体が消滅する」という切り口で、「消滅可能性自治体」の数を数えたりしている。前回リストと異なり、自治体消滅の問題については、自然減・社会減という2つの要素を切り分けて分析・算定していることは評価できる。また、都心部では、社会的流入があることで、出生率が低くても「消滅」はしにくいことから、「ブラックホール自治体」と銘打って、問題をあぶりだそうともしている。



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 しかし、今回のレポートも、誤解を恐れずに言えば、引き続き、方向のずれたメーセージを世の中に強く打ち出してしまっており、憂慮される。二点指摘したい。


 一つ目は、依然として「自治体の消滅」にスポットライトをあてている点である。真の課題は、日本全国の急速な人口減少であり、社会減対策はマクロ的にはまったく意味をなさない。それなのに、「自治体単位でのサバイバル」こそが重要課題に見えるようにしている点は、大きな問題である。


 極端な話、自治体は消滅しても全くかまわない。過疎化・人口減少が深刻で、人口100万人に達しないような県は全国にいくつかみられる。仮に、その県内のすべての市町村が大同合併して、たったひとつの広域自治体だけになったとしよう。それでも(=県内の残りの基礎自治体が「消滅」したとしても)、新たな広域自治体による統一した施策によって県全体が住みやすくなり、出生率が有意にあがり、その県の少子化が解決するのであれば、県としても日本全体としても、そして住民自身としても、その方がはるかに重要なのである。基礎自治体の「消滅」を避けることが解決策なのではない。



 もう一つの問題は、「自立持続可能性」自治体という分類である。レポートでは、人口がどんどん減少していても、それが20%以下であれば、「100年後も若年女性が5割近く残存しているから『自立持続可能性』自治体」としている。


(資料:人口戦略会議)


 これを素直に読むと、「自立持続可能」な自治体は大きな課題がない…といった印象を与えかねない。それはまったくミスリーディングなことは明らかで、ネーミングの仕方に問題があったと言わざるを得ない。

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 レポートはもちろん、少子化のトレンドを変えようとしている。そのために、ショック療法的に、あえて「自治体のサバイバルゲーム」に仕立てて、とりわけ課題の大きい自治体の行動変容を促そうとしているのであろう。その点は大いに共感する。




 しかし、そもそも基礎自治体単位で出来ることはかなり限られている。もっと、広域での密接な協力と合併(=自治体の「消滅」)を促すことが重要である。総体として、どうしたら住民によって暮らしやすく、生み育てやすい環境にできるか、という点に留意して、政策対応をすべきである。


 そして、「自立持続可能性」自治体であっても、25年後には、人口が増加しているところが一つもない、という「不都合な真実」を前面に打ち出すべきであった。全国一丸となって、自然減・少子化対策に取り組むべき、という強いメッセージが必要なのである。



(筆者作成、原データ:厚労省)


 津々浦々で、自然減が圧倒的なスピードで進んでいる。ここをなんとかしていくことが最大課題であることは、強調してもしすぎることはない。個々の自治体の「消滅」を回避するための対策に注力する余裕は、日本にはないはずである。



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