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「ふるさとはどこなのか」(コラム#008)

更新日:2022年4月10日

ふるさと納税は、制度設計が甘かった。この制度を長持ちさせるには、自治体では、制度の本来の趣旨に鑑み、返礼品競争を自重する一方、国側も、性善説に立つことなく、制度の持つ欠陥を速やかに是正すべきである。そして、何よりも、我々住民が、寄附する際に「本当に応援したい『ふるさと』」を選んでいくことが大切である。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)

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 今日は確定申告の締切日である。個人事業主となって初めての青色申告・確定申告をなんとか終えて、ほっとしている。幸い、最後の提出部分はe-Taxを使って簡便にできたが、寄附金については受領証明書を別途郵送する必要があり、その郵送代や手間暇を考えると控除対象とする方が大変なので、結局控除はしなかった。


 さて、寄附金といえば、ふるさと納税である。ふるさと納税を巡っては、泉佐野市が、ギフト券を含む過度な返礼品で多額の寄附を集めたこと、そして、そのあと、そうした濫用を止めたい国と対立が続いていることは、つとに知られている(注)。

  (総務省 ふるさと納税ポータルサイトより)


 そもそも、ふるさと納税は、制度設計に甘さがあった。A市の住民が「お世話になったB町を応援したい」という思いをもって寄附する行為自体は、是認されるべきで、だから制度上、寄附金控除の対象としたのであろう。しかし、寄附の実態をみると、自治体の提供する返礼品の「魅力」によって金額の集まり具合が著しく異なっている。つまり、「純粋に応援したいから」というよりも、「(ほかの市町村よりも)返礼品がお得だから」という理由で、寄附先としてB町を選ぶ人が断然多いのである。


 このため、自治体では返礼品競争が過熱してしまったが、その当時の制度設計を前提にすれば、自治体間の競争には「一定の合理性」はあった。そして、そうしたふるさと納税の「カタログ・ショッピング化」を押しとどめる手段を、国がきちんと用意していなかったことから、混乱が長引くこととなった。


 ふるさと納税を推進している地方自治体の関係者には、返礼品競争によって一体何が起こっているのか、ここでもう一度立ち止まって、考えてみてほしい(関係のみなさんは、十分理解していることではあるが、改めて述べたい)。


 まず、ふるさと納税制度の本来の趣旨に立ってみてみる。これは、上述の通り、「B町を応援したい」というA市の住民の思いを汲み、B町の財政状況を一定程度支援することを実現するものである。きれいごとをいえば、(寄附金控除という税制上の後押しはあってもよいが)返礼品などなくても、その町を本当に応援したい人は寄附するのである。そして、よしんば、地場産業振興を同時に進めたいのであれば、寄附行為とは切り離して、(例えば、寄附への「御礼の手紙」の中で)地元の特産品等のPRも行ったりして、地元業者を直接支援してもらえるようにすればよかったのである。ところが、今のふるさと納税の実態をみると、「寄附先を応援する」という趣旨は、すっかり霞んでしまった。


 また、財政的な影響についてもみてみたい。ふるさと納税によって、A市からB町に寄附金相当額の税金が仮に「全額」移されて、それが行政サービスの充実に向けて有効に使われたのであれば、この制度は、地方交付税の「再配分機能」を一定程度補完する機能を果たしたであろう。


 しかし、現実には、寄附をした人はA市では減税となる一方、実際に寄附された金額は、返礼品・業者への手数料、あるいは制度運用のための自治体職員の人件費といった大きなコストを払いながら、B町にその「一部」がようやく移管される仕組みとなっている。こうしてみてみると、返礼品競争が過熱した場合には、国全体(A市+B町)では財政が却って悪化し、その分、住民全体(A市+B町)への行政サービスが低下することさえあるであろう。

  (国税庁ホームページより)

 

 したがって、各地の自治体が一緒になって行政を担うという立場で考えたならば、個々の自治体としては、こうした(過度な)返礼品で寄附金を集めるような競争は――国の制度設計がお粗末なために、「禁止」されていなかったのだとしても――制度の趣旨からみても財政面からも「自重」すべきものなのである。地方自治というものは、そうしたマクロの視点も持ちながら、バランス感覚をもって運営すべきであろう。


 一方、国側では、「後出しじゃんけん」や「江戸の仇を長崎で討つ」スタイルで、自治体の過度な競争を是正しようとするのではなくて、制度の欠陥を速やかにただしていくことが求められる。泉佐野市などでは、「違法なことはしていない」「地元が潤うことが大事」という信念で、これからも今の路線で突き進んでいくに違いない。したがって、国は、性善説に立つのではなく、制度を濫用する一部自治体が現実にあることを前提に、きちんとした制度を設計していくしかない。


 そして、この制度が本来の機能を発揮するためには、我々自身が「お得だから」ではなくて、「応援したい『ふるさと』だから」というモノサシで寄附先を選んでいくことが、何よりも重要なのである。企業や団体のプロジェクトに対して、クラウド・ファンディングで集まる寄附の方が「応援したい」という純粋な思いがよほど強いというのでは、あまりにも寂しいではないか。


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(注)例えば、同市がふるさと納税で多額の寄附を得たことを理由に、国が特別交付税を減額したことが違法かどうかが争われているが、報道によれば、国は地裁判決を不服として、昨日(3月14日)控訴をしている。

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