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「パスポート」から「ケータイ」に変われるか~マイナンバー・カードの近未来(コラム#020)

マイナンバー・カードの交付枚数は最近随分増えて「普及」の段階に至った。これを、日常的に「使用」し、普段から「携行」するものにしていくためには、用途を積極的に広げるとともに、「番号は秘匿すべきもの」というイメージを払拭する必要がある。また、公金受取口座の登録を一般化することは、給付金を必要とする国民に迅速に届けるために重要である。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)


(出典:総務省ホームページ)


 実に1年振りにマイナンバー・カードを使った。確定申告をするためである。自宅にいながらにしてe-Taxで確定申告が出来るようになったのはとても便利だが、それにしてもマイナンバー・カードの出番が少なすぎる・・・。これでは暗証番号も覚えていられない。


 マイナンバー・カードについては、今でも人によって必要・不要の議論が飛び交っている。それでも、政府はやっきになってマイナンバー・カードを普及させようと、最近は「○○Pay」のように大盤振る舞いまでしている。お蔭で、申請数は最近になって急速に伸びていて、累計で約9,600万枚(人口比76.1%)となった。交付枚数(2023年2月末時点)も約8,000万枚(人口比63.5%)にまでなったので、まもなく運転免許証の交付枚数(約8,200万枚)を上回るものとなる。


 なりふり構わずポイントをつけるというやり方は、税金の無駄遣いで賛同はできない。しかし、マイナンバー・カードの普及について、ようやくメドがたってきたこと自体は朗報である。

(出典:総務省発表資料より、筆者作成)


 そのように「普及」してきたマイナンバー・カードだが、それでは、我々市民は普段の生活で果たしてこれを「使う」ようになるのか。


 政府は数年前までは、「マイナンバー・カードは、大事にしまっておいてください。」「特にマイナンバー(番号)は、みだりに他人に知られてはならないものです。」というキャンペーンを張っていた。そのため、持ち歩くことに抵抗感や不安を感じるのは当然で、落としたりしたらそれこそ大変である。今のところは、海外旅行に行くときにしか抽斗から取り出さない、パスポートのような感じだろうか。




 でも、スマートフォンであれば、それこそ「なくしたら大変」という意味では同じでも、当然毎日持ち歩いている。あるいは、銀行のキャッシュカードや、クレジットカードも財布に入れている。運転免許証を財布に常時携帯している人も多いだろう。それらとマイナンバー・カードとはどこが違うのか。


 結局、普段から持ち歩くかどうかは、それを「日頃よく使うかどうか」にかかっている。それに加えて、暗証番号が知られていないとすぐに悪用はされない(キャッシュカード)とか、悪用されたときにもなんとか損失を取り戻せる(クレジットカード)といった、「安心できる要素」も重要であろう。



 3月7日の閣議決定を踏まえると、来年秋には、健康保険証がマイナンバー・カードと一体化される。また、マイナンバーの用途は、社会保障・税・災害対策に限定していたものを広げ、国家資格、自動車登録、在留資格に係る許可等の事務でも使えるようになる。まだまだ用途としては狭いが、ようやく「日頃から使うもの」に近づいてきてはいる。

 

 あとは、「安心感」である。実は、本来は、マイナンバー(番号)自体は公知のものであって、それだけを知られたとしても、悪用は出来ないはずである。何種類もの暗証番号があり、個々の行政のシステムは実は別々に管理されてもいる。政府としては「番号は、他人に秘匿すべきもの」という呪縛を解く時期にきているのではないか。


 クレジットカード番号であれば、さすがに他人にみだりには見せていないが、支払いの際には当然店員に見せている。マイナンバーの「秘匿性」がどの程度のものなのかは、改めて議論し、キャンペーンをして、正しい相場観をもってもらうことが必要である。そうしてはじめて、人々はマイナンバー・カードを、パスポートのようにしまい込むのではなく、ケータイや運転免許証並に普段から持ち歩くようになるであろう。その方が、行政関係のDXも色々進めやすくなるはずである。



 もう一つ、マイナンバー・カードの普及・活用そのものではないが、全国民が公金受取口座を登録するようにすることは、行政のインフラとして非常に重要である。


 新型コロナ給付金(10万円)のときには、日本の給付制度の弱さが露わになった。その反省から、政府は、国民に広く公金受取口座を登録してほしいはずである。インフレ対策であれ、子育て給付金であれ、必要な人に必要な支援をタイムリーに行えるようにするには必須のツールであり、経済振興のための「○○券」などの印刷・配布も不要となるし、様々な減税や還付等が迅速に出来るようになることは国民一人ひとりにとってもメリットは大きい。最近のバラマキ政策は目を覆わんばかりであるが、税の再配分を本気で行いたいのであるならば、全ての国民に公金受取口座を登録しておいてもらうことはかなり重要なのに、そこはまだまだである。


 そうした中で、今回、年金受給者について(本人から別の意志表示が特段なければ)原則として年金受取用の口座をそのまま公金受取口座にすることにしたのは、大きな前進である。

 


 若い人の間でも、公金受取口座の登録は重要である。マイナンバー・カード申請のポイント付加のキャンペーンをした際に、例えば「銀行口座も登録したら、そこに、さらに○○ポイント相当額をすぐに入金しますよ!」とでもすれば、公金受取口座の登録まで一気に進んだ可能性があるし、給付金事務が滞りなく行えるかの実証実験も出来たろう。どうせ大判振る舞いをするのであれば、そこまですればよかったかもしれない。

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