top of page

若い世代の物心両面の不安解消を~少子化問題の解決に向けて(コラム#014)

 少子化・人口減少への対応にあたっては、地球温暖化対策と同様、「国家百年の計」としての想像力、実行力が問われている。若い世代の「①時間がない」「②お金がない」という不安を解消し、結婚しやすい世の中、子供を沢山産んでも大丈夫と思えるに世の中にしていくことが重要である。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本)

***

 5年毎に実施される「結婚と出産に関する全国調査」が先日発表された。これによれば、前回調査と比べ、(1)未婚者では「結婚意欲」や「希望こども数」が一段と下がったほか、(2)夫婦においても「理想こども数」が下がったとのことである。昨今の少子化問題の深刻さが、意欲の低下という点からも確認されたといえる。



(データ出所)「2021年 社会保障・人口問題基本調査:第16回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)。今回は、新型コロナウイルス感染拡大のために調査を一年延期し、2021年6月に実施し、2022年9月9日に公表。グラフは筆者作成。


***


 良く知られている通り、人口減少は、わが国最大の政策課題である。少子化は、(a)そもそも出産適齢期にあたる20~30代の人口が減っているのに加えて、(b)結婚しない人が増え、(c)仮に結婚したとしても、既婚女性が生涯で平均的に生む子供の数も減ったことで、ここ数十年深刻化してきた。(a)は、今さらどうにもならないが、(b)(c)については、社会環境を整えることで改善する余地はある。


 未婚者が増加し、夫婦が平均的に生む子供が減少している原因は、社会の価値観の変化もさることながら、非常に単純化すれば、「①時間的余裕がない」「②経済的余裕がない」という2点に集約される。少子化の底流には、若い世代における物心の余裕のなさや将来不安がある。新型コロナウイルスが大問題になった以降をみると、そうした余裕のなさや将来不安が一段と深刻化したことから、婚姻数や出生数の減少に拍車がかかっている。日本の少子化は、結婚したくても出来ない、子どもを持ちたくてもその余裕がない、というように、個々人の選択が狭まった結果であるとさえいえるのである。


 したがって、少子化対策として打つべきなのは、「①時間がない」「②お金がない」という課題を解消し、結婚しやすい世の中、子供を沢山産んでも大丈夫と思えるに世の中にしていくことである。よく見れば、政府もその方向で対策を作ってきてはいる。しかし、少子化に関しての危機意識が圧倒的に足りなかったため、長年に亘って政策は小出しで、どの対策をみても質量ともに不十分であった。


 少子化問題は、地球温暖化問題と似ている。長期的な視野に立って、早い時期から効果的な対応を思い切ってしていかないと、どんどん課題は深刻化してしまい、取返しのつかない状況になってしまう。今年、生まれてくる子供の数が急に増えたとしても、少子化や人口減少問題が解決するのは何十年も先になるのである。「国家百年の計」としての想像力と実行力とが問われている。


 来春には子ども家庭庁が発足するが、せめて、これを起爆剤として、より抜本的な対応をお願いしたい。



 一方、結婚や出産は個々人が選択すべきものであって、「社会の維持のために」誰かに押し付けるべきものではない。男女ともに、「家庭を持ってこそ一人前」といった社会的なプレッシャーは随分減った。女性からすれば、誰かに経済的に依存しないでも生きていくための選択肢が増えている。子どもを何人持つのか、持たないのかも、カップルが自由に考えるものである。「国の将来が立ち行かないから、結婚を奨励し、少子化をなんとか食い止めないといけない」と一方的に主張するのは、別の意味で、個々人の人生の選択の自由を狭めるものとなりかねず、慎重たるべきである。


 ではどうすればよいか。自分としては、(1)結婚や出産を希望しない人はそのような選択が自由にできるようにすること、(2)一方、希望する人には、安心して子育てできる世の中を作っていって、(3)結果的に、国全体でみた出生数が人口減少を招かないレベルになるような社会を目指すということだと思う。


 単純計算であるが、例えば、3割の人が結婚しないことを選んだ場合、結婚することにしたカップルの方では平均して子供を2.8人(!)持てるような世の中にするということである。2.8人というのは平均値であって、その中には、お子さんを持たない夫婦が少なからずいる一方、3人以上のお子さんのいる家庭も沢山あるという具合になる。


 そうしたかたちであれば、個々人の人生の選択は大いに尊重しながら、国全体としては総人口の減少をなんとか食い止めることができるのである。見果てぬ夢であるが、社会としてはそういった姿を目指すべきであろう。




 少子化・人口減少に関連して、「地方創生」の問題についても補足したい。


 数年前に、自治体消滅というセンセーショナルなことが言われて以来、地方創生で人口減少問題を解決しようという動きが盛んになっている。


 ただ、実際の地方創生では、多くの対策が、街づくりや雇用創出などで定住促進策を進めて、地域の人口減少問題を緩和しようという方向に向けられてしまった。仮に別の町から住民を呼び寄せることに成功したとしても、それだけでは「全国的にみればゼロサム」であることは明らかである。日本全体の人口が増えるわけでは全然ない。若い世代がどこにいようが、「本当に子育てしやすい社会」を全国にあまねく作らない限りは、日本の人口減少問題・少子化問題は解決しない。


 「地方創生」は、少子化対策の力点を、定住促進策・社会増といった少しずれた方向に振り向けさせてしまったという意味では、罪深いスローガンであったと自分は思っている。

閲覧数:72回0件のコメント
bottom of page