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ドラッグ・ラグと電動キックボード~ライドシェアの今後の展望(コラム#028)

 UBERを代表格とする「ライドシェア・サービス」の導入に向けての議論がようやく始まった。わが国では、「目先の安全性の確保」を重視するあまり、改革や導入等が遅れることで発生する「目に見えない国民の損失」を過少評価しがちであるが、住民の声なき声をしっかり聴き、関係者の支持を地道にとりつけて、市場改革を早期に進めていくべきである。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)

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 UBERを代表格とする「ライドシェア・サービス」(一般の運転手が、タクシーに代わって有償で乗客を運ぶ業)は、世界中でここ数年大きく普及している。そうした中、日本においてもようやく導入に向けての議論が広がりをみている。政府の規制改革推進会議でも議題となったほか、超党派の国会議員による勉強会や一部自治体における検討会議も始まったところである。


 日本は、人口減少・生産年齢人口の減少で、タクシーの運転手の不足は年々深刻化しており、これが改善する見込みは当面ない。一方、路線バス等も十分採算をとれないような地域では、高齢の住民が日々の買い物等のために運転を余儀なくされることが常態化しており、生活が不便となるとともに危険性が増している。


 タクシー業界では、UBER等の参入に対して強い警戒心を抱いており、運行の「安全性」の確保や、運転者の「労働環境」(ワーキングプア化)について懸念を表明しているようである。しかし、ライドシェア・サービスは世界的に普及し、安全性を確保するための運転手の資質の担保等に関するノウハウや、運転者の収入確保や働き方等についてのルールも整備されてきている。そうした現状からすれば、住民や消費者のニーズが着実に増えている日本において、ライドシェアを導入しない、ということは考えにくいであろう。



 今回の件に関して、二点コメントしておきたい。


 一つ目は、日本では、「目先の安全性の確認」を重視するあまり、改革や導入等が遅れることで発生する「目に見えない国民の損失」を過少評価する傾向が大変強いという点である。



 例えば、医薬品の世界では、海外で認可されても日本での認可が遅れる、という「ドラッグ・ラグ」が長年問題になっていた。日本人を対象とした治験データ等の情報が十分整わないと国内での医薬品としての認可が下りないような状況であった。しかし、最近では、新薬を待っている患者を救うべく、出来る限り認可を早める方向にはなってきている。


 「安全性の確保」という美名の下で、本来ならば新薬で救えたはずの多数の患者がほっておかれるのは本末転倒である。ライドシェアについても、日常生活での不便や危険にさらされている住民等の声なき声を、しっかり視野に入れるべきであろう。



 もうひとつは、規制緩和に向けての仲間作りである。


 この点については、最近法改正がなされた「電動キックボード」の事例があり、これは今後のライドシェアの展開の参考になりうるであろう。


 電動キックボードは、欧州では随分普及してきていたのが、わが国では、既存の制度の壁(「原付」に分類されていた)や、安全性への懸念から、市場拡大が危ぶまれていた。これに対し、業界では、地道に支持基盤を強化していきながら、規制緩和に向けての地ならしをしていった。具体的には、まずは業界団体を作るとともに、政界にも理解者を増やしていって議連の立上げにも成功し、また、安全性については、自治体や大学と実証実験を重ねていくことで、規制官庁や市民の安心性への件にも配慮していった次第である。



 そうした様々な積み重ねによって、本年7月からは、新法が施行されることとなった。具体的には、自転車と原付の間に、新たに「特定小型原付き自転車」という分類を設けて、電動キックボードをこの分類に入れることにしたことから、運転免許証は不要となり、ヘルメットは推奨(任意)、となった。

乗り物である以上は、事故はどうしてもゼロにはできないが、この点については、業界では、引き続き、電動キックボードの安全性についてのイメージが損なわれてしまうことのないように、運転ルールの普及啓発等、細心の注意を払っているようである。


(参考)電動キックボードの規制改革に向けた動き


 電動キックボードというものが、わが国で普及すべきものであったのかどうかついてのコメントはここでは差し控えるが、「関係者の巻き込み」という点で、この事業戦略は非常に成功しているといえよう。


 ライドシェアについては、「ドライブ・ラグ」とならないように、業界としても関係者と積極的に議論をしていくことが望ましい。

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