「少子高齢化が進む地域へ子育て世帯の移住を後押しする」ことを狙いとした「地方創生移住支援事業」が来年度からさらに拡充される。このように、政策目標がズレてしまっていて、政策効果も殆どない事業が「地方創生」の名の下でなされていて、国の将来を憂えるばかりである。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本)
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(内閣府HPより)
寡聞にして知らなかったが、政府は、東京圏から地方へ移住する世帯に対して、直接支援する「地方創生移住支援事業」というものを2019年度から実施していたらしい。東京圏外の市町村に移住し、5年以上居住するなど、一定の条件を満たせば、一世帯あたり原則100万円の支給を受けられる、そして、支給額は子どもの数に応じて上乗せされる(人数×30万円)という事業である。報道によれば、昨年度は、転職しないテレワークによる移住も対象に加えたことによって、支給実績は前年度までの数倍となり、1,000件以上となった。
そして、今回、2023年度からは、子供の数による上乗せ額を「子供一人×100万円」に増額することを決定した。本事業は、「少子高齢化が進む地域へ、子育て世帯の移住を後押しする」ことが狙いと聞く。
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誤解をおそれずにいえば、安倍政権以来の「地方創生策」は力点がずれている。そもそも論を含め、いくつか疑問に思うところを述べてみたい。
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日本の最大の問題は、(地方ばかりではなくて)「国全体」の少子化である。そもそも、「地方創生」は、(東京圏とともに)地方を活性化させることが、国全体の少子化を解決することに資する、という発想で検討されたはずである。それが、政治的思惑で、いつのまにか最後の目標が抜け落ちて、「(社会増によって)市町村の、目先の人口減少を食い止める」ための手段となってしまった。そのために各地は「移住促進策」や「まちおこし」に躍起になっている。そこからして、一連の政策が根本的にずれてしまっている。
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そして、仮に、今回の事業が目指すような地方移住が1万人単位で起こったとしても、全国の出生者数が年間数十人増える程度のインパクトしかない。簡単な試算をすれば分かるはずである。
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よしんば、地方に住む世帯を増やすこと(「社会増」)が、その地方の経済の活性化に繋がるとしても、それは、地元の雇用を増加させてこそである。ところが、2021年度からは、テレワークで東京圏の仕事を続ける場合も受給対象となっている。この点で、「移住さえしてくれればよい」というように、政策の力点が一段とずれてしまっている。
雇用創出とともに、十分な教育環境や安心できる医療等がセットでない限りは、「社会増」を目的とした政策でさえ、成功はしない。5年経ったら、移住した世帯は東京圏に再び引っ越すであろう。雇用創出、教育環境の充実等こそが「社会増」を実現するための王道であり、それ以外のインセンティブ付けは蛇足であろう。なけなしの政治的資源を投じるべきところを間違えてはいけない。
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また、移住先の対象は、全国の8割にあたるそうである。「地方創生」は、それぞれの地方が魅力度を高めていって、(「社会増」の点でも)よい意味で競争する中で、国全体を活性化しようとしたものだったはずである。今回の事業は、住民が実質的にどの市町村に移住しようが受給できるという点で、そうした地方間の競争のインセンティブも削ぐものともなる。
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最後に、受給対象には、所得制限を設けないとのことである。テレワークが出来て、稼ぎの大変よい東京圏の世帯を、違う地域に住んでもらうために数百万円支給するというのは、どういった税金の使い方なのか。
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小さい事業ながら、国の将来を憂えてしまうニュースを年末に聞いてしまった。とても残念である。