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大学運営と費用負担~東京大学の授業料引き上げの報に接して思うこと~(コラム#038)


東京大学の授業料が20年振りに引き上げられる。高等教育のレベルを維持するためには、相当の資金は必要であるが、それをどのように確保し、誰が負担するかについては、あらためて考える時期にきている。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)


 東京大学は、このほど、来年度の学部入学者から年間の授業料を2割引き上げることを決めた(現行:53.6万円→64.3万円)。授業料の値上げは2005年以来、20年ぶりとなるそうである。


(東京大学HPより)


国立大学の授業料は、省令で定められており、「標準額」(53.6万円)は2005年以来横ばいのままであるが、事情があれば大学の裁量で2割まで増やすことが出来るとされている。今回の措置はその範囲内の値上げである。これまでも、東工大・芸大・一橋大などでは、標準額よりも高い授業料にしてきているので、最初のケースというわけでもない。ちなみに、私立大学の授業料をみると、文系で平均80万円、理系では110万円、医学・歯学系は300万円程度となっている。


(筆者作成。原データは、文部科学省)


高等教育の予算のあり方については、絶対の正解はないが、(1)教育環境を整えるのに、どれほど教育に予算を充てるか、(2)それを誰がどの程度負担するか、そして、(3)どれだけの子女に高等教育のチャンスを与えるか、という3つの側面に分けて整理してみたい。


(1)は、一般化は難しいが、すくなくとも日本の大学は平均的には苦しいやりくりをしている。今回の東大の値上げも、財務状況が相当逼迫している中でのやむを得ない措置と説明されている。つまり、今の予算規模では最高学府として十分な教育環境を整えられていないということである。


(東京大学HPより)


(2)の高等教育の負担のあり方も、国によって大きく違うので、単純な比較はすべきではないが、日本の大学の授業料(=受益者負担分)は、先進国の中では比較的高い方となっている。よく知られているように、北欧では公立大学は一般に授業料は無料(=全額税金によって賄う)であり、西欧諸国でも学費は比較的安く抑えられている。一方、米国では公立でもかなり学費は高く、私立になると突出して高額であることが社会問題にもなっている。


(3)については、日本の大学進学率は、少子化も手伝って近年どんどん上がってきていて、今や6割近くとなっている。低成長経済となる一方、これだけ大学進学率があがると、大学に行くこと自体、かつてほど就職や生涯賃金で有利なものではなくなっている。大学生の学力も下がってきていると言われている。達観すれば、大学自体が、供給過剰となる中で淘汰される時代に来ている。

(出典:文部科学省)


ちょうど同じ時期に出た報道によれば、全米総合大学ランキング2025年版で1位となった、プリンストン大学(私立)の学費は、6万2,400ドル(約900万円弱)とのことである。いやはや驚くべき金額である。


米国の有名私立は、極端な事業モデルではあるが、(1)良好な教育環境を用意し、(2)そのための資金は、企業からの寄付や高い学費で潤沢に確保し、(3)激しい競争で学生を選別する一方で、経済的に厳しい学生は奨学金で救済するという、一つの経営スタイルを貫徹している。例えば、自分の通ったプリンストン大学の公共政策・国際関係の大学院では、企業や卒業生からの寄付がうなるほどあることから、今や院生全員が奨学金をもらっている。



 内外情勢が大きく変化する中(世界ランキングで測ることだけが意味のあることではないとしても)、日本の高等教育については大幅に見直す時期に来ている。


 今後の大学教育が全体として進むべき方向感について、私見を述べてみたい。


まず、①高等教育である以上、学力を一定程度有した人でないと学問が出来ないように、門戸はもっと狭くすべきである。つまり、大学の定員ないし大学数は、足許の少子化のペース以上に厳しく絞り込んでいくことが必要である。全入時代といわれているが、そこは大いに改める必要がある。


②そうした「選択と集中」によって、大学数を減らした上で、一つひとつの大学にはもっと国家予算を充てるべきである。教育・研究環境を改善することなしには、高等教育のレベルアップははかれない。受益者負担分となる授業料についても、相応に引き上げて、教育環境を整える資金に充当していくこともやむを得ない。同時に、企業や個々人からの寄付を、大学教育に振り向けてもらうように、税制上のインセンティブを強めるなど、資金調達ルートを多様化することも重要である。


③一方、経済的に恵まれない学生が門前払いにならないよう、奨学金制度など救済措置は一段と手厚くすべきである(今回、東大でも奨学金の対象を拡充するとしている)。但し、成績を一定程度残せること等を条件にすることで、①の学力維持を、同時に担保すべきであろう。





日本の多くの大学は民営であるし、今の教育システムは、これまでの様々な経緯があって出来上がっている。したがって、白地から絵を描くことはできないであろうが、大勢の知恵を集めることで、わが国の高等教育がよりよい方向に向かうことを願っている。

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