一定の年収を超えないように就業調整をする「年収の壁」が取り沙汰されて久しい。これが人手不足を招いているとともに、女性の社会での一段の活躍に対してブレーキとなっていることは明らかである。労働時間の多寡や、働き方の違いで割を食わないような制度に早期に変えていくことが重要である。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)
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「年収の壁」は、最近すっかり有名になった感がある。
非正規雇用の中には、パート的な働き方をしている女性も少なからずいる。そして、一定の年収に達しないように、就業調整をする「専業主婦」が3割もいるとのことである。一定の年収を超えると社会保険料等を払うこととなって、足許では手取りが却って減ってしまう。それを嫌がって、パートの主婦が総労働時間を抑えている。
この問題は昔から存在していたが、人手不足が一段と深刻化している中で、最近改めてこの問題がクローズアップされているといえる。また、賃上げが取り沙汰されているが、賃上げをすれば、より少ない労働時間で「年収の壁」に到達してしまうので、雇用側としても難しい対応を迫られている。
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手取りへの影響が特に大きいのが、厚生年金や健康保険に加入して新たに社会保険料が発生する「社会保険料の壁」(106万円、130万円)である(注)。所得税については、一定の課税所得を越えてもそこで所得税が急激に増えないような計算式となっているが、社会保険料についても何等かの工夫が必要となる。
(注)このほか、所得税が発生する103万円、配偶者特別控除が減り始める150万円などの区切りがあるが、これらは「心理的な壁」と呼べるものであって、これを越えたら手取りまでが急激に減るわけではない。
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「社会保険料の壁」については、専業主婦が社会保険料負担の面で優遇されている現行制度(第三号被保険者制度)を見直していくことが抜本的な対策となる。
ただ、それは2025年の年金制度改正でようやく議論されるということで、それまでの間の繋ぎとして出てきたのが、本年10月からはじまった企業への助成である。弥縫策であるだけに、賛否は大きく分かれる。例えば、同じ助成をするのでも、「壁」を軽々と越えられるような早期賃上げをする企業を思い切り支援するようなかたちも考えられたはずである。
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女性の就業率は近年上がってきている。子育て世代になると就業率が低くなるという所謂M字カーブも随分解消されてきた。そして平均就業率だけをみれば、実はOECD諸国の中でもむしろ高い方くらいになってきている。
しかし、その実態をみると、女性は非正規雇用が多く、短時間労働であるし、要職についている比率も低いなど、質量ともに課題があることはよく知られている。そして、「社会保険料の壁」が、女性の社会での一段の活躍に対してブレーキとなっていることは明らかである。「年収の壁」の存在が、(労使ともに)賃金の引上げへのインセンティブを削いできたことも看過されるべきでない。
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我々はどのような社会を目指すのか。人手不足を緩和するとともに、女性活躍を推進する上では、上記「社会保険料の壁」は早々になくした方がよい。一方、より多くの男女がフルタイムに近いかたちで仕事をするようになると、「家事負担の壁」「子育ての壁」が一層厳しくなる。それらを早期に解決していくような社会システム作りも一段と求められる。
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家事・育児負担については、正社員男女のカップルで比べてみると、家事育児時間に費やす時間は圧倒的に女性の方が多い。男性の長時間労働を明確に減らすとともに、社会全体の意識を大きく変えていくことが急務である。
家事育児時間/日(正社員)
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個々人の、そして、カップルの価値観に応じて、色々な働き方や生き方があってよい。そして、多くの方が、自分の価値観や家庭の事情に応じて、ワークライフバランスがとれる範囲で効率的に働きながら、安心して家庭をもったり子育てが出来たりするようにしていくことを目指すべきであろう。そのためにも、労働時間の多寡や、働き方の違いで割を食わないような制度にしていくことが鍵となる。
「壁」は沢山ある。しかし、方向感をもって対応すれば、越えていけるものばかりのはずである。