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官製マッチング・サイト~打つべき対策はそこなのか(コラム#035)


東京都では、未婚率を下げるべく「婚活マッチング・サイト」を独自開発し、今夏にも本格稼働させるとのことであるが、こうした官製サイトは民業圧迫になるほか、対象者の広がりにも欠け、少子化対策としてみても力点がズレてしまっており、うまくいかない可能性が高い(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)。

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 東京都では、昨年末に開発し、試行してきている、婚活マッチング・サイト(「TOKYOふたりSTORY AIマッチングシステム」)をこの夏にも本格稼働をさせるとのことである。ほかにも全国的には色々な自治体で類似の取組がみられている。


 2023年の人口動態統計によれば、合計特殊出生率は1.20となり、過去最低を更新し、特に東京都は、都道府県で最低水準の0.99となった。少子化の原因についてはいろいろ議論があるが、高い未婚率が大きな課題であることは間違いない。そうした中、自治体が婚活支援をしていく一環として、こうしたマッチング・サイトを独自に開発・運営する、といったアイディアも出てきたのであろう。


(出典:厚労省)


 以下、こうした「官製マッチング・サイト」について、特に気になる3点に絞ってコメントしたい。


 まず、民間に、すでに多数のマッチング・サイトが存在する中で、類似のサービスを公的機関が行う必要はないであろう。自治体が独自のマッチング・サイトを開発・運営するのは、民業圧迫ともなる。


 むろん、民間マッチング・サイトは、相手の身元がはっきりしないなどとして、登録に二の足を踏む人も多いのも事実である。それに対し、東京都のアプリでは、登録時に独身証明と収入証明の提出を要請するなど信用面を高めるとしている。しかし、マッチング・サイトの信用力を高めるためには、民間と業務提携をしたり、官民が協力しながら利用方法の啓発等々をすすめたり、あるいは、一定条件を満たす既存事業者に補助金を出す、といった方策をしていけば必要十分なはずである。現に、姫路市や氷見市などはそういうかたちで民間業者と提携している。



 次に、マッチング・サイトは、登録者の母数が多くならないと意味がないのに、今回の事業はそもそも広がりに欠ける仕組みとなっている。


 自治体自身が運営するとなると、対象者を「自治体内の在住・在勤者」に限らざるを得ないし、さらに利用者のトラブルを防ぐため、登録を厳格化すればするほど、対象人数が絞られてしまう。登録店舗の少ないグルメ・アプリが機能しないように、このような官製サイトは早晩行き詰る可能性が高い。


(出典:厚労省)


 そして、昨今未婚率が高いのは、若い世代の所得の低迷の影響が大きいのだから、自治体としては、そちらの解決にもっと政策の力点を置くべきである。いくら官製サイトで、年収の自己申告の「信憑性」を上げたとしても、それだけでマッチング率が上がるものではない。経済面で自信のない人は、結局、マッチング面で不利な条件におかれたり、そもそも登録を躊躇したりすることには変わりない。


 むろん、「若い世代が『結婚しよう』と思えるだけの収入の確保」は簡単ではない。マクロ経済環境の改善や賃金水準の見直しなど、ひとつの自治体だけではとても対応できない課題も多いのも事実である。そうした中でも、もし自治体が本気で婚活に「介入」したいのであるならば、官製サイトを独自に作るよりも、そのお金で「数百万円単位の結婚支援金等を、若いカップルに渡す」といったような極端な補助事業をすすめる方が、よほど筋がよいであろう。




 東京都は5億円を掛けてマッチング・サイトを独自開発したとのことである。さらに運営の人件費・委託費もかかる。EBPM(証拠に基づく政策立案)の観点からすれば、この事業は本当に「費用」(5億円+α)対「効果」(成婚数)の面で意味があるのか、そこを企画段階できちんと検討したのか、疑問なしとしない。


 7月の都知事選では、この事業の是非については話題にもならないであろうが、一つひとつの政策対応の意義はよく考えて税金を使っていってほしい。



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