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新しいフェーズに入った新型コロナ対策に期待すること(コラム#018)

わが国における新型コロナ対策も、ようやく新たなフェーズに入る。5類になっても、政府が①エビデンスや論理性を重視して、②適時適切に政策対応を行い、③国民に分かりやすく説明していくことが求められるという点は変わらない。社会全体としては、当面の感染者数の増加を過度に恐れる必要はなく、経済社会活動は正常化していくべきである。一方、高齢者にとっては引き続きリスクが高い疾患であるので、医療の受け皿を充実させることを怠るべきではない。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)

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 報道によれば、新型コロナウィルス感染症については、5月8日をもって、結核など「2類」に相当するものから、新型インフルエンザ等に近い「5類」に、感染法上の取り扱いを変えていくとのことである。最近は、緊急事態宣言等こそ出されていなかったが、社会生活上の制限は相当程度残っており、法令上、どっちつかずの状況にあったのが、ようやく変わることになる。


 パンデミックへの政策対応をいつ、どの程度見直していくかの判断は難しく、「後知恵」的な要素はどうしてもある。とはいえ、日本政府は、政策転換に向けての判断がかなり遅れたのは否めない。せめて半年程度前には、感染法上の扱いの見直しが出来たように思う。世界の主要国では、既にポストコロナを前提とした経済社会体制に移行して久しい。


《最近1年間の全国・新規感染者数の推移(日足)》



(原資料:厚労省)







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 以下では、厚労省の『データからわかる-新型コロナウィルス感染症情報』(https://covid19.mhlw.go.jp/ )のオープン・データを使って、これまでの推移と現状を簡単に整理してみたい(2023年1月29日時点での公表計数を使用)。


 まず、新型コロナウィルスの「悪性度」について、ごく単純に「新規感染者数(一か月の合計)」に対する「重症者数(同月末日)」ないし「同・死亡者数(一か月の合計)」の比率でみてみる。この(簡易指標でみた)「重症化率・死亡率」は、ワクチン接種率の向上や医療体制の整備等も功を奏したに違いないが、2022年初から様相は大きく変わり、相当低水準になっている(下図)。



 医療の専門家や行政当局は、より正確な指標等を使って判断しているであろうが、大きな流れとしては、上記と変わらないであろう。


(厚労省発表データに基づき、筆者作成)





 一方、新規感染者数は引き続き増えている。このため、死亡者数は、絶対数でいえば、実は、足許で一番多くなっている。死亡率は大きく低下しているが、感染者数(分母)が非常に大きくなっているため、亡くなる方(分子)が増えているのである(下図)。

 


 この事実は非常に重い。仮に感染法上の扱いが5類に変わったとしても、新規感染者数の増加については――過度に恐れる必要はないが――決して「無頓着」になってはいけない。


(厚労省発表データに基づき、筆者作成)




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 死亡者(新型コロナが始まってからのこの3年間の累計)を年代別にみると、よく知られている通り、圧倒的に高齢者が多い(下図)。

《性別・年代別死亡者数(累計)》




 最近増加している死亡者も、殆どが高齢者である。


(原資料:厚労省)








「(簡易指標でみた)死亡率」をみても、70歳以上では他の年代と比べて圧倒的に高い(下図)。



 こうしたことから、今後とも、主に高齢者を念頭に、医療面で十分に支える体制を用意しておくことは大変重要である。


(厚労省発表データに基づき、筆者作成)







 新規感染者が極端に増えれば、悪性度の低いウィルスであっても、入院を要する人数が増えることになる(下図)。

 そうした際に、医療逼迫を起こさないよう、一般の医療機関での受け皿を充実させていく必要がある。この点は、これまでと変わるものではない。


(厚労省発表データに基づき、筆者作成)


 



 以上、簡単なデータで確認した通り、今後は、社会全体としては、新型コロナを過度に恐れることなく、経済社会活動は正常化していくべきである一方、高齢者にとっては引き続きリスクが高い疾患であることを十分に認識して、医療体制の受け皿を充実させていくべきであろう。


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 新型コロナが始まって3年になる。その間の政策対応についても、ここで簡単に振り返ってみたい。

 実は、流行初期の段階(2020年2月)には、新型インフルの際の枠組みを参考にしながら、政府は『新型コロナウィルス対策の目的(基本的な考え方)』というものを既に発表している(下図。その後、随時改変)。


(新型コロナウィルス感染者対策専門家会議(第3回) 2020年2月24日)


 この基本方針では、(A)患者の増加スピードを抑え、流行のピークを下げる、(B)そのために、①国内侵入防止(水際措置)、③感染拡大防止、③重症化防止策を積極的にとる、(C)その間に、医療対応の体制強化を進め、医療崩壊を防ぐ、といったように、今からみても、至極まっとうなことが書かれていた。


 ところが、その後の2年間(デルタ型の流行時まで)の具体的な対応をみると、この「基本的考え方」とは全く異なるかたちで迷走した。前例のないことばかりではあったとはいえ、各種の政策対応では、総じて①論理的な思考力の弱さ、②データ・情報の軽視、③柔軟性・迅速性の欠如、という日本社会全体の特質が露わとなった。また、国民への説明力も低かった。国全体として、「全体最適」のために「合目的に動く」ことが苦手で、合理的に対応できなかったといえる。


 この結果、欧米諸国と比べれば、感染者数や重症者数が各段に少ない状況が続いたにも関わらず、「緊急事態宣言」は長期化し、一部で医療崩壊が発生した。また、経済は疲弊し、財政も大幅に悪化した。



 一方、昨年1年間についてみると、政策対応力が改善したというよりも、幸いにして、新型コロナウィルスの悪性度が下がり、このため、国民の不安や不満が爆発しないで済んだという方が正しいであろう。そして、政策を機敏に見直すことを怠ったために、経済社会体制の正常化が大変遅れてしまった。


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 5類になっても、政府・自治体が、①エビデンスや論理性を重視して、②適時適切な政策対応をしていくとともに、③国民に分かりやすく政策の前提や狙いを説明していくことが求められるということは、全く変わらない。感染症の区分変更をきっかけに、関係者の政策対応力・対話力の改善を強く期待したい。


(花粉症なので、屋外でのマスクはまだまだ外せません。。。)


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