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見えないコストと見えざる手~退職金課税制度の見直しに向けて(コラム#029)

「退職金課税制度の見直し」は、本年見送られてしまったが、人材が転職しやすいようにするための諸改革は積極的に進め、成長分野への労働移動を促すべきである。(ソーシャル・コモンズ代表 竹本治)

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 今年も国内外で色々なことがあったが、とくに国内政治では、要職にいた議員の不祥事や、派閥による政治資金規正法違反関係の話題等が紙面を賑わしている。政治家の「適材適所」は実現していないようである。


 目先対応しないといけないことが増えると、「先のことを考えている余裕はない」状態になってしまう。長期的・構造的な政策課題に取り組む政治的エネルギーが削がれてしまったことを懸念しているのは、筆者ばかりではないであろう。



 退職金課税制度の見直しもそのひとつである。夏場には、「三位一体の労働市場改革」の中で、リスキリング・職務給化の促進とともに、成長分野への労働移動の円滑化の一環として議論され、2023年度の『骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)』にも、「見直しを行う」旨明記されたところである。


 現行の税制では、勤続年数が20年を超えると、退職所得の控除額が増えるようになっている(40万円/年→70万円/年)。これは、永年勤続に報いる趣旨で取り入れられていた仕組みであろうが、転職が増えた令和の時代にあっては、これが成長分野への労働移動を抑制しているので、早急な見直しが必要である。


(出所:国税庁HP)


 ところが、政権運営に暗雲が垂れ込める中で、そういった機運は後退し、結局、与党の2024年度税制改正では、検討自体が簡単に見送られてしまった。控除の仕組みを、もっと働き方に中立的なものに見直していくのではないか、といった報道等が出ていたことが遠い昔のように感じられる。


 退職金制度を見直すと、勤労世代の退職後の生活設計に非常に大きな影響が生じる。また、そもそも退職金は給与の後払い的な要素も一部含まれることから、税負担を大胆に変更することは、慎重に考えていくべきではある。




 しかし、日本社会のあちこちでみられる悪弊であるが、改革や導入等のスピード感が圧倒的に足りない。対応が遅れることで発生する「目に見えない国民の損失」を過少評価しているのであろう。


 少子化が進む中で、少しでも稼げる社会にするためには、労働生産性を早く上げるしかない。日本は、労働市場の流動性が低いことから、大勢の人が十分に能力を発揮できないかたちで組織内に滞留しているといわれる。人材が転職しやすいようにするための諸改革は、躊躇なく進めるべきである。そうやってはじめて、労働市場における「見えざる手」が働き、世の中で「適材適所」が実現していくことになる。





 日本社会には、ことを悠長に構えている暇はないはずである。

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